「南海一號」というとレストランを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、「南海I號」はもともとは南宋時代の商船のことを指します。長い間海に沈没していましたが、1987年に発見され、2007年に引き上げられました。その「南海I號」に関する展示を見に行ってきました。
さて、先日、尖沙咀 Tsim Sha Tsui(チムサーチョイ)の九龍公園 Kowloon Park(カオルーン・パーク)内にある香港文物探知館 Hong Kong Heritage Discovery Centre(香港ヘリテイジ・ディスカバリー・センター)に行きました。先月一度見に行ったのですがじっくり見られなかった、「南海I號」の特別展を見に行きました。
南海I號について
南海I號は、南宋初期の商船で、南宋淳熙10年(1183年)以降に広東から南海に向かう途中の航路で沈没したとみられています。最初に発見されたのは1987年ですが、技術や資金の問題で引き上げ作業が遅れ、2007年になってやっと海から引き上げられました。船内からは磁器、銅鉄器、金銀器、漆木器など、多くの文物が見つかっています。
「從灣區啓航:『南海I號』與海上絲綢之路」展について
海のシルクロードは、古代中国にとって、海外の諸外国との交通貿易と文化交流のための重要な海上ルートでした。秦漢以降、広州港を中心に、香港、マカオなどを中継地とする貿易体系が徐々に作り上げられて行きました。
今回の展示は、「南海I號」や廣州南越國宮署遺跡、香港の聖山遺跡、マカオの聖保祿學院遺跡などから発掘された文物を通して、海のシルクロードにおいての、広東、香港、マカオの重要性を示すものとなっています。
展示場所:香港文物探知館 Hong Kong Heritage Discovery Centre
展示期間:~2025年2月12日
「南海I號」から見つかった浙江龍泉の青釉の磁器☝
「南海I號」から見つかった福建徳化の徳化窯の青白磁。
「南海I號」から見つかった景徳鎮産の青白磁。
宋朝政府は広州の貿易事務を非常に重視していて、宋太祖開寶4年(971年)、まずは広州に広州市舶司という港で海外貿易管理をする部門を設置し、宋神宗元豐3年(1080年)「広州市舶條法」を制定し、制度を強化していきました。「南海I號」の船上から発見された醬釉罐のほとんどが、佛山南海の窯で焼かれた酒壺だったことから、「南海I號」が広州に寄港し、沈没前に最後に寄港した場所が広州だったのではないかと言われています。
宋代に広州を往来する船舶は自然の制約を受けることが多く、季節風に頼って運行していました。そのため、冬に広州から出航し、夏に帰港していました。船舶が出航する前には、広州市舶司やほかの地方の長官らが船旅が順調であるようにと、宴を催しました。こちらに☟「南海I號」や廣州南越國宮署遺跡、香港の聖山遺跡、から出土した酒壺などが展示されています。
「南海I號」や廣州南越國宮署遺跡、香港の聖山遺跡から出土した酒壺(酒甕)など。
廣州南越國宮署遺跡から出土した佛山南海窯の酒壺(酒甕)。
「南海I號」☝
「南海I號」から見つかったもの☝顔がアラブ人っぽいです。
南海I號から見つかった、南海窯の酒壺(酒甕)。壺には「玉液春」というお酒の名前が印字されています。
銅銭と南海窯の壺(甕)。南宋孝宗時期の「淳熙元寶」(1174~1189年)と書かれた銅銭は、南海I號から見つかった中では一番最近のもの。また壺には「淳熙十年」とも印字されていることから、「南海I號」の沈没がそれ以降であることがわかります。
南海窯をはじめとする嶺南一帯で作られた甕や壺などは「廣東罐」と総称され、唐代以降の沈没船から多く発見されています。また、香港やマカオ、広州でも「廣東罐」は出土しており、古代中国と諸外国との交流や航海貿易航路などに関しての貴重な資料となっています。右の写真にあるように、様々な年代、様式のものが出土しています。
こちらはどの沈没船からどのような陶磁器が発見され、当時どのエリアと交易をおこなっていたのかを表にしたものです☝
主に、香港のランタオ島で出土したもの☝
香港の九龍城の聖山で出土したもの☝
香港のランタオ島で出土された染付の陶磁器。
全てマカオの聖保祿學院遺跡から出土したもの☝左側の黄緑色のものは、黃綠釉の陶器。右側は景徳鎮の染付の陶磁器。
4つの酒壺(酒甕)は南海I號から引き上げられたもの。完全な形で残っています。
南海I號から引き上げられた酒壺(酒甕)と、廣州南越國宮署遺跡から出土したもの、南海の窯から出土したもの、それぞれ印字されている文様や文字には共通点が見られます。
また、南海I號からは陶磁器だけでなく、金銀貨幣や金の装飾品、銅鏡なども発見されました。
これら南海I號で発見された金の装飾品は、浙江杭州の金銀店において、生産販売されていたものの可能性があり、その多くが中国で当時流行っていた様式とは異なる、海外諸国で流行っていた様式のものでした。
展示を見て、海のシルクロードにおける香港、マカオ、広東の働きや、古代中国と外国諸国のかかわり、を知ることができました。また、800年も昔に沈没した船からこのように多くの陶磁器はじめ装飾品などが発見されたことは驚くべきことだなと思いました。あまり焼き物については詳しくありませんが、楽しめる展示でした。
<行った日:2024年12月3日>
香港文物探知館 Hong Kong Heritage Discovery Centre
住所:尖沙咀海防道九龍公園
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